小さな教室の 私の目の前で
会いたかった親子があっちを見たり
こっちを見たりしているのは
文字通り有り難いことでした
25年ほど前 Kaさんは小学校4年生
私の教室に来て 高校3年生まで
いっしょに英語の勉強をしました
その後 カナダに留学した彼女とは
連絡が途絶えてしまっていたのです
ところがこのインターネットのおかげで
Kaさんが私を捜し当てて下さり
ちょうど1年前に再会
それ以来 今度は哲学クラスに参加しています
それも6歳になる息子Le君といっしょです
とはいえ一家はハワイ暮らし
パンデミックの影響で二人は帰国できず
哲学クラスもずっとオンラインでした
そして私とKaさんとは20年振りの再会
Le君とは初めての対面です
ずっと画面越しでしか話せなかった二人が
私の教室に初めてやってきて
本を手に取ったり 流木作品を選んだり
それぞれの興味が赴くままに そこに居て下さる
縁とは異なもの 味なもの です
さてLe君は どんなことも訊いてきます
私とKaさんが話していることにも
「ん? なに? なにを話していたの?」
一つの話題も洩らさず 分かち合いたいLe君です
そしてKaさんは一つ一つていねいに応えます
お土産に持って来て下さったハワイ特産の塩の袋にKaさんが塩の名前を書いている間にもLe君は何か問いかけています
Kaさんが必ず彼の期待に添ってくれることをLe君は知っていますLe君はまるごとの信頼をお母さんに置いています
私はそんなKaさんを誇らしく 見とれていました
するといつのまにか私の傍にやってきたLe君が
「これ なぁに?」と
机の上に広げてあった紙に描かれたモノを指さしています
___ う〜ん 手錠かな
「handcuff?」(彼はハワイ生まれのお父さんとは英語で話しています)
___ そうだね
「なんでここに描いてあるの?」
彼が見ていたのはこの図です
安倍政権下での政策について「次々と作られていく法律」と題された図その左上のピンクの輪の下方に描かれたモノを見て問うてきたのです
安倍政権が財界やアメリカと通じ① 戦争反対の口封じのために マイナンバー法 盗聴法(通信傍受法) 共謀罪(テロ等準備罪)
② 戦争準備を隠すために 特定秘密保護法
③ 戦争のコストを庶民から取るために 消費税UP 非正規雇用増加 国民年金保険料UP 介護保険料UP 賃金ダウン 年金減額 社会保障費ダウン
④ 武器輸出のために 武器の輸出解禁 防衛装備庁設置 軍事研究推進
⑤ そして戦争で儲けるために 戦争法(安全保障関連法) 集団的自衛権
をチャクチャクと軍備を進めていることが簡潔に描かれている図ですとはいえ 私は一つ一つの法案や制度などをよく理解していなかったのでそれぞれを調べて 以前 空白に詳しいことを書き添えていました
Le君はその図を見て 私に質問を始めたのですハワイと日本とのオンラインではあったけれど彼が物事を彼なりに納得するまで 質問を止めないことそれに対して Kaさんが辛抱強く応えている姿を私は この一年間毎週の哲学クラスのたびに観てきました
Kaさん一人の哲学クラスの時もKaさんの傍に居たい あるいは玩具が見つからないはたまた観ていたテレビ番組が終わっちゃったなどなど 彼にとっての嬉しくない様々な出来事をKaさんに訴え 彼女からの説明に Le君は納得した表情をしているのを観てきました
だ か ら た〜〜〜いへんなことになったぞ! と私は内心警戒しました彼は たった今 この図に興味津々ですそもそもなぜ 手錠なんかが描かれているの?いつも由紀子さんが読んでくれている本や話し合いの中では そんなブッソ〜なモノの話は出てこないのに そんな顔です
___ あのね Le 戦争って知ってる?「うん 知ってる」___ ひととひととが殺し合うんだよね その時に どんな道具を使うかな「ん〜」___ たとえば戦車 tankのこと 知ってるかな
私は手っ取り早く傍にあったパソコンを開いて彼に戦車とはどんなモノかを見せようとしましたすると「(パソコン)ひらかないで! かいてみせて!」とLe君そこで私は戦車の絵を簡単に描き
筒先から出る数条の線を足しました
___ ここからね ひとをたくさん殺す光や球が出るの「たま ってなにでできてるの? 木? 石?」___ ん〜 鉄みたいに硬い物「テツって?」
私は傍にあった鉄の取っ手が付いた燭台を持って来てLe君に触らせました___ これが鉄 硬くて冷たいでしょ もうこういうのは使ってないかもしれないけど この鉄で出来た大きな球を遠くに飛ばして たくさんのひとを殺せるんだよ 戦車は「じゃ そういうひとをつかまえる ってことだね だって ころしちゃだめだからね」___ ・・・・ Leのようにやさしいひとばかりだといいけど やさしいひとがいるっていうことは?「やさしくないひともいる」___ そうなの この手錠はね 戦車とか銃でひとを殺す人を捕まえるためじゃなくて 戦争をしちゃだめだよ〜 ひとを殺しちゃだめだよ〜 っていうひとを捕まえるための手錠なの「・・・・・・?????」
これ以上由紀子さんに訊いてもな〜 と思ったのか彼は こんどはその下の絵を指さしました「これなに?」___ それはコンピューター(特定秘密保護法を説明するッテカ・・・)「それがどうしたの?」
キョーボーザイやヒミツホゴホーなどをLe君にどうしたら知ってもらえるか心の中では 井上ひさしさんの言葉を自分に言い含めていましたそして私はLe君のおかげで改めて安倍政権から引き継がれている政策の復習をさせてもらったのです
戦争をしたいひと じゃなくて 戦争をしたくないひとになぜ手錠を掛けるのかきっとLe君には訳が分からなかったでしょう分からなくてよいのです分かってはならないからです
ふ と脇を見ると Le君が静かに鉛筆で先ほどの紙に落書きをしていますん? 戦争をしたいひと ひとを殺したい人に手錠を掛けなくちゃいけないと ちゃんとわかっているLe君らしからぬ行為です何か訳があるのだろうと 私は黙って観ていました
娘にLINEでこの話をすると 彼女は「この子には世界がどう見えているんだろうね−」と書いてきました平安に整っていてほしいらしいよ と返すと「んだんだ」と返信がありましたまったくです
夜 受業を終えて机の上を片付けているとき 改めてLe君の落書きを見てみました
ほそぼそ と 弱々しくですが「次々と作られていく法律」の題字 そのあたりにうにょうにょ と鉛筆の跡がありますこの困った世界に対して「だめでしょ〜〜」というLe君の気持ちかな と勝手に想像しました
来週の水曜日から参議院選挙の公示そして7月10日は投票日ですKaさん Le君は一ヶ月の東京滞在の間毎週哲学クラスに来て下さることになりましたLe君のウニョウニョを私の心にもしっかり残します